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名古屋地方裁判所 昭和33年(わ)423号 判決 1958年5月12日

被告人 原田正之助

主文

被告人を無期懲役に処する。

領置したナイフ一丁(昭和三三年領第一〇八号の証第三号)は、没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三十二年十月十一日午後七時頃、窃盗の目的で、名古屋市南区豊門町五丁目十九番地森正美方表門の施錠を外して玄関口から屋内に侵入し、同家六畳の間の長押に掛けてあつた背広上衣ポケット内から、同人所有の金属製ライター一個を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同家を焼燬しようと決意し、同日午後八時過頃、同家六畳の間にあつた箪笥の抽出しの中に、同箪笥の上にあつた洋服箱などボール箱十個位と箪笥の中にあつた和服用包紙等を積み重ね、同家勝手場にあつたマッチでこれに点火して、もつて現に森正美及びその家族の住居に使用している右木造セメント瓦葺平家建家屋に放火し、よつて同家屋一棟(建坪約十二坪五合)を焼燬し、

第二、同年十二月十日午後九時過頃、窃盗の目的で、同区氷室町一丁目十五番地奥村正光方玄関格子戸の南京錠をもぎ取り、所携の合鍵(昭和三三年領第一〇八号の証第二号)で捻締錠を外して、屋内に侵入し、同家中四畳半の間にあつた同人所有のシャープ五球ラジオ一台及びタバコケース一個並びに西側四畳半の間の押入付近にあつた同人所有の男子用紺背広上下及び銘仙茶縦縞丹前一枚を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同家を焼燬しようと決意し、同日午後九時三十分過頃、中四畳半の間にあつた本箱を西側四畳半の間に運び、同間にあつた茶箪笥を移動させて、押入前付近に並べ立て、本箱の中の雑誌五六冊を破つて、右本箱、茶箪笥の上及びその周囲にばらまいた上、右茶箪笥の上にあつたマッチでこれに点火して、もつて現に奥村正光の住居に使用している右木造瓦葺平屋建家屋に放火し、よつて同家屋一棟(建坪十五坪)を焼燬し、

第三、同年同月十六日午後十一時頃、窃盗の目的で、同市瑞穂区熱田東町浮島八十五番地化粧品雑貨商鈴木義一方店舗表出入口ガラス戸を破り、内側捻締錠を外して同人の看守する同店舗内に侵入し、同店舗内にあつた同人所有の現金約六百円、薄茶色ビニールスーツケース一個並びに丹頂チック他化粧品約二十一点(見積合計四千五百円相当)を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同店舗を焼燬しようと決意し、若し右店舗に放火すればこれに隣接する住家に延焼することを知りながら、同日午後十一時四十分頃同店舗奥四畳半の間西南隅の畳の上に包装紙、新聞紙等十五、六枚を丸めて置き、付近にあつたマッチでこれに点火して、もつて現に人の住居に使用していない且つ人の現在しない右鈴木義一所有の右木造トタン葺平家建店舗に放火し、よつて同店舗一棟(建坪約八坪)を焼燬し、これに隣接する栗原仙之助及びその家族の現に住居に使用している家屋一棟(建坪八坪位)並びに奥谷半三及びその家族の現に住居に使用している家屋(建坪約二十一坪)の二階裏側押入の一部及び裏側勝手場の屋根の一部を類焼させて、それぞれこれを焼燬し、

第四、同年同月十九日午前一時過頃、窃盗の目的で、同市熱田区羽城町八番地飲食店伊藤甚七方店舗北側窓の硝子を破り内側捻締錠を外して該窓口から右伊藤甚七の看守する同店舗内に侵入し、同店内にあつた同人所有の一升瓶詰清酒一本、瓶詰ビール一本、ポケット瓶詰ウイスキー一本外食品三点を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同店舗を焼燬しようと決意し、同日午前一時二十分頃、同店舗南西隅調理台の上に抽出し三個を積み重ね、その上に帳面、広告紙等を置き冷蔵庫の上にあつたマッチでこれに点火し、もつて人の現在しない右伊藤甚七所有の木造スレート瓦葺平家建店舗(建坪約四坪)に放火したが、通行人に発見消火されたために、同調理場の物置棚、硝子戸、のれん等の一部を燻焼しただけで右店舗を焼燬するに至らず、

第五、昭和三十三年一月二日午後二時頃、窃盗の目的で、同市南区江戸町二丁目三十八番地の十各務岩次郎方裏出入口引戸の南京錠をもぎ取つて屋内に侵入し、同家中六畳の間にあつた箪笥抽出し内から、同人所有の茶色皮手袋一双を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同家を焼燬しようと決意し、同日午後三時過頃、右箪笥の抽出しを引き出した中に、同間の押入にあつた新聞紙二十枚位を入れ、所携のマッチでこれに点火して、もつて現に各務岩次郎及びその家族の住居に使用している右木造スレート瓦葺平家建家屋に放火し、よつて同家屋一棟(建坪十五坪五合)を焼燬し、更に之に隣接する現に樋口豊治及びその家族の住居に使用している家屋の屋根及び天井の一部並びに勝手場を焼燬し、

第六、同日午後七時三十分頃、窃盗の目的で、同区中通町二丁目四番地の二矢島績方玄関格子戸の捻締錠を所携の合鍵(前記証第二号)で外して屋内に侵入し、同家表六畳の間にあつた洋服箪笥の中及び箪笥の上から、同人所有の鼠色ポーラーズボン一本及び赤色風呂敷一枚を窃取した後、その犯跡を隠蔽するため、同家を焼燬しようと決意し、同日午後八時頃、同家玄関上り口にあつた石油罐を持つて来て、右六畳の間の洋服箪笥及び箪笥の抽出しを引き出した中へ石油を注ぎ込み、所携のマッチでこれに点火して、もつて現に矢島績及びその家族の住居に使用している右木造スレート瓦葺平家建家屋に放火し、よつて同家屋一棟(建坪九坪四合)を焼燬し

第七、(一) 昭和三十二年十月四日午後十時四十分頃、同市南区元禄道二丁目一番地先路上において、石川芳子から同人所有の現金九百円及び市電定期券等雑品数点在中のナイロン製水色ハンドバック一個をひつたくつて、これを窃取し

(二) 同年十二月初め頃の午後二時頃、窃盗の目的で、前記第二の奥村正光方表玄関格子戸の捻締錠を所携の合鍵(前記証第二号)で外して屋内に侵入し、同家押入れの中から同人所有の新品ネル寝巻一枚を窃取し

(三) 同月十日頃の午後十時頃、同区豊門町二丁目八番地シカゴ洋服店こと中村才治方店舗において、同人所有の新品男子用灰色ウーステッド背広上下一着を窃取し

(四) 同月二十二日頃の午後九時十五分頃、同区屋敷町三丁目七番地先路上において、尾藤節代から同人所有の新品銀色布製ハンドバック一個をひつたくつて、これを窃取し

(五) 昭和三十三年一月九日午後七時三十分頃、同市熱田区伝馬町四丁目三十二番地先路上において、小笠原初子から同人所有の現金約三千百六十七円位及び化粧品等雑品数点在中のビニール製黒色ハンドバック一個を窃取し

第八、昭和三十二年十二月十三日午後十一時三十分頃同区羽城町六番地先附近路上において、赤梅良三と喧嘩をし、所携のナイフ(昭和三三年領第一〇八号の証第三号)で同人の顔面に切りつけ、よつて、同人に対し、全治まで約十日間を要する下顎部切創を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯の理由となる前科)(略)

(法令の適用)(略)

(裁判官 高橋嘉平 吉田誠吾 服部正明)

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